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瀬戸内海を撮る 撮影:大島邦夫


photographed Kunio Oshima



広島湾の夜明け

 朝日を撮るには、朝日より早く起きなければならない。当たり前だがこれが大変。晴天を見込んで行っても雲の隙間からもったいぶるように、見え隠れしながら昇ってしまうこともある。太陽が全く顔を出さないことも珍しくないし、かと云って透明度が良すぎると出た瞬間にハレーションを起こして撮れないことになる。しかも春から夏にかけては4時過ぎると明るくなってくるので、絶好の朝日を撮るには、余程の覚悟が必要だ。
 しかし、この日ばかりはそんな憂さは吹っ飛んだ。前の晩と云っても深夜12時を過ぎてボートのロープをほどき、闇夜でほとんど見えない広島湾に乗り出した。広い海では心もとない懐中電灯と感を頼りに、広島湾から宮島方面に向った。140馬力のエンジンをグッと抑えて1500回転で、かき筏や船に衝突しないよう手探り状態で進みむ。1時間以上かかって宮島の東端に辿り着く。砂浜が夜間灯で白く浮かび上がっているのがかすかに見え始め、やがて包ヶ浦とわかる。魚探で水深4〜5mまで近寄り暗い海にアンカーを放り込む。キャビンの外は風がさわやかで、船体にヒタヒタと波が音をたて、空には星が溢れている。8mそこそこの今夜の寝床は夜明けまでゆられることになる。

 狭い船室でハッと目をさます、船内がオレンジ色に染って空気まで赤い、何が起こっているのかすぐには分からない。寝がけに飲んだアルコールのせい?、が、次の瞬間,空一面斜めに広がる雲が真っ赤に燃えて、今まさに太陽が出ようとしているではないか!  とっさにアンカーを引っ張り上げ、35と6×7、35のワイドと持ったり置いたり、エンジンはいつかけたのか、待ってくれ〜と念じながら夢中でシャッターを切った。風と波で流され揺れる船上では、カメラを水平に保ち構図を決めるのは至難の業、勿論三脚は意味が無い。エンジンを前進、後進、朝日に方向を取り直しシャッターを切る間もなくまた流される。足と腰、両腕のバランスでの戦いもつかの間。撮ったのは35と35ワイド数枚のみ。あっと言う間の出来事は10数分。太陽が出始めると雲が厚くなりチャンスは消えたが、確かな手応えと幸運を噛み締めた。

大島邦夫




海への愛着

 私は幼ない頃、戦火を逃れて家族で疎開した。母の故郷である広島湾に浮かぶ能美島の南端の村、深江には小舟がゆったりと並んで浮かび、海も浜辺も美しく自然が溢れ、夏になるとわんぱく共は歓声を上げて海に飛び込んだ。白い砂浜には松並木が風にゆられて青々と輝いていたし、沖合いの大黒神島は、どこか神々しく我々を見守ってくれているようだった。島々の向こうに遥か遠く霞んで、ゆっくり動く大型船から憧れの未知の世界を想像した。

 しかし、経済発展の裏で、松並木は消え、砂浜はコンクリートで固められ、大黒神島は削り取られて無残な傷跡を晒し、今も尚、破壊は続いている。
 幾万年の昔から穏やかな多島美を誇る瀬戸内海、世界でも希な内海の景勝地。この私達に与えられた素晴らしい自然の財産、四季折々の自然現象と刻一刻の美のドラマを、写真で捉え多くの人々に観ていただきたい。そして子供の頃夢見た、あの海への憧れと感動を子や孫に、そして多くの人々に伝え、この素晴らしい瀬戸内海を共に守り未来につなげたい。



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